広州青年旅舎
広州青年旅舎はカタカナで書くと、
いわゆるユースホステルである。
世界中からやってくる
ビンボーな若者のために
寝床を提供するはずの
ところである。
ここならば何とかなるだろう
と思い
私は広州青年旅舎を選んだのだ。
しかしここも中国であった。
カウンターの男女
私が広州青年旅舎に入った時、
カウンターの若い女性は
男の人と
何やら楽しげに話をしていた。
カウンターを挟んで
話し込む二人に向かって私は、
部屋が空いているかどうかを尋ねた。
この宿の服務員であるとみられる
彼女は、いともあっさり
「没有」
という答えを私に返した。
そして再び
男の人との会話に熱中しはじめた。
まるで何事もなかったかのように。
そこに私という人物が
いないかのように。
口惜しい、
かといっていつまでも
口惜しがっている場合ではない。
もう既に夜中の12時を
過ぎてしまっているのだ。
仕方なしに私は
広州青年旅舎を後にし、
今日の宿を探し求めて
そのあたりをさまよった。
しかしどこへ行っても
部屋はなかった。
あったとしても
五つ星の高級ホテルで
私には手が出ない。
結局ぐるりと廻って
私は
広州青年旅舎の前に立っていた。
もう一度、
もう一度行けば
あのお姉さんも
何とかしてくれるかもしれない。
という諦めにも似た
淡い希望を抱きながら、
私は彼女に訴えた。
「どこへ行ってもダメだった。
頼むから今夜は泊めてくれないか」
しかしここでの彼女の反応は
さっきよりも
冷たいものであった。
彼女にとって私は
ただの空気でしかなかった。
彼女は私に一瞥をくれただけで、
次の瞬間には
男の人とケラケラと笑い合っていた。
ーここですごすごと引き下がっては
俺の中の大和魂が許さないー
発揮しなくても良いようなところで
私は存分に大和魂を発揮させて、
今夜は何としても
この広州青年旅舎で
夜を明かしてやろうと考えた。
ロビーで過ごす夜
そこで私は
入口を入ってすぐのところ、
ロビーの片隅に腰を据えた。
体育座りをし、
両足の間にリュックを挟んで
夜を明かす準備を整えた。
しかし夜は長すぎた。
永すぎたと書いた方が良いかもしれない。
だいたい全校集会で
校長先生の話を聞くだけでも
腰が痛くなるのに、
その体育座りで
一晩過ごそうというのだから
大変である。
さらに悪いことには、
昼間列車の中で寝過ぎたために、
この大事な時に限って
いっこうに眠くならないのだ。
まったく授業中だったら
何も言われなくても
気持ちよく眠ってやるのに、
眠るべき時に眠れないなんて
困った体である。
そして
追い討ちをかけるように
空腹が私の上に襲ってきた。
一泊二日の列車の旅で
私が食べたものといえば、
実にあのパン二つのみだったのである。
まさに泣きっ面に蜂である。
こんな時は
時計の針の進みさえもが
敵となる。
永遠に朝が来ないような気がした。
途中何度か
記憶が飛んでいる時間帯がある。
眠っていたのか、
気を失っていたのか、
今となっては分からない。
ただ薄れゆく意識の向こうで、
若い男女が奏でる中国語だけが
音楽のように響いていた。
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