管理職ヘンカク研究所

第一章 上海に向かう船の中

バンコクでの再会

バンコクで、ある人から声をかけられた。

9月も半ば、薄暗いカフェで
この旅最後の手紙を
書いていたときのことである。

「みやもとくーん、元気?久しぶりじゃん」

帽子を目深にかぶり、
円いメガネをかけ、
無精ひげを生やした、
どう見ても
私の一つ年上とは思えない
ずんぐりむっくりした男が、
午後の光の中に立っていた。

本当に久しぶりであった。

そしてこのバンコクでの再会が、
今回の私の旅を象徴していると思うのだ。

船の中

出会い

彼と初めて出会ったのは
バンコクでの再会の1ヶ月半前、
8月1日のことである。

場所は
大阪港を出たばかりの船の上、
二等船室Bであった。

20畳くらいの部屋に
30人あまりが雑魚寝するという、
安いだけが魅力のこの部屋で、
私と彼は隣同士になったのである。

正確にいうならば、
横の隣ではなく頭の上の隣である。

この部屋の乗客のほとんどは
バックパック一つで旅をする
個人旅行者であった。

はじめはみな
お互いを意識しつつも
話しかけられないという状態が、
しばらく続いた。

そして少しずつ
会話の輪が広がっていった。

私たちも
タバコの灰皿を探すことがきっかけで
話を始めた。

私と、
彼(Aくん)と、
一つ年下の青年Tくんの3人である。

船の上だけでなく、
旅の途中で人と話す時、
はじめに話すことは
大体決まっている。

どこから来たのか、
これからどこへ行くのか、
何日間くらい旅をするのか、
今までどんな国へ行ったことがあるのか。

旅の途中ならばさらに、

日本をいつ出てきたのか、
この街には何日間くらい居るのか、
エトセトラエトセトラ。

といった具合である。

大東文化大生であるAくんは
去年中国に留学していて、
今回はチベットを目指すこと。

獨協大のT君は
シルクロードを目指すことが分かった。

この先の旅に対する興奮も手伝ってか、
我々は急速に親しくなった。

昼間っから
ビールを飲みながら語り合った。

夜は夜で
デッキに出てビールを飲んだ。

潮を含んだ風が、
生暖かく私たちの間を吹き抜けていった。

遮るものが何も無い夜空に瞬く北斗七星は、
今にも落ちてきそうであった。

彼らのおかげで、
この2泊3日の船の旅は
まったく暇をしなかった。

ラピュタ

二日目の夕方、
昼間一緒にトランプをした
女の子と二人で、
夕日を見にデッキに出てみた。

日が沈むまでには
まだ少し時間があるようで、
空はまだ少し明るかった。

船から見える360度の景色は
すべて海である。

当たり前のことだが
これは全て水なのだ。

頭では分かっていることなのだが、
この地球上に
こんなにも大量の水があることに
正直私は驚いた。

自然の偉大さ、
驚異というものに
打ちのめされてしまったのである。

この星はやはり
「水の惑星」
なんだということを実感した。

そして、昔の人たちが、
地球はお盆のような形をしている
と考えていたのが
少し分かったような気がした。

そのお盆の縁に沿って
真っ白な雲が海を取り囲んでいた。

「きっとあの雲の向こうにラピュタがあるよ」

まったく人は旅に出たら
何をしでかすか分からない。

普段ならば
口が裂けても言わないような、
こんな小っ恥ずかしいセリフが
私の口をついて出てきたのである。

しかしその時は、
本当にラピュタがあるような気がしていた。

ラピュタと、
その向こうに沈みゆく夕日を
見続けていた。



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